全国ニュースでも話題になった秋田市の「太平物産」が、11月27日に秋田地方裁判所に民事再生法の適用を申請しました。
太平物産は、販売していた有機肥料の成分表示に偽装が見つかり、農林水産省により出荷停止の行政指導を受けていました。
太平物産(株)(TSR企業コード: 291078443、秋田市卸町3-3-1、設立昭和21年9月、資本金3億1200万円、佐々木勝美社長、従業員144名)は11月27日、秋田地裁に民事再生法の適用を申請した。申請代理人は粟澤方智弁護士(奥野総合法律事務所・外国法共同事業、中央区京橋1-2-5、電話03-3274-3805)ほか。
負債総額は約33億円。
東京商工リサーチから引用
この日の会見には、佐々木社長と代理人の弁護士が出席。民事再生法の適用を申請した理由について、会社側は、主要取引先のJA全農への販売がストップしたことで財務状況が急速に悪化し、今月末の決済も難しくなったことを挙げた。また、企業イメージがダウンしたことで、太平物産としての再生は困難と判断。別のスポンサー企業に事業を引き継ぎ、将来的に会社を清算する意向を示した。既に、複数の企業に承継を打診しているという。従業員約130人については雇用を継続、承継先でも雇用してもらうよう求める。
読売オンラインから引用
偽装が発覚したのは11月5日なので、1か月もたたずに経営破綻したことになります。
昨年度の売上高は65億7693万円で、収益は6071万円です。売上高利益率は「0.92%」となり、収益のでるビジネスではありません。
そのため、出荷停止による資金繰りの悪化が大きく、月末の決済もできなくなったようです。
太平物産は今後どうなる?
「民事再生法」の適用なので、今後、スポンサー企業を募って債務の整理を行い事業の再建を目指すことなります。「破産手続き」ではないので、すぐに太平物産という会社自体が無くなることありません。
今回の偽装で問題になったのは、「有機野菜」を育てていた農家への影響です。
なにせ有機野菜として育てていたものが、有機野菜でなくなってしまいました。
そのため、農家への損害賠償が必要になります。
太平物産の肥料を販売していたJA全農では、農家への補償費用を太平物産に請求する方針で、現在の債務残高33億円に加えて、さらに同額程度の損害賠償請求が見込まれています。
太平物産としては、これが決め手となり、今回の決断をせざるを得なくなったようです。
そのためか、太平物産の佐々木社長の会見では、民事再生法により事業をスポンサー企業に引き継いでもらった後、「将来的には会社を清算する意向」だそうです。
やはり、残念ながら「太平物産」という会社は、近い将来に無くなりそうです。
気になるのは、従業員の雇用についてですが、佐々木社長によるとスポンサー企業側での再雇用を求めるそうです。
ただし、すべてはスポンサー企業の意向によって決まります。外部環境の変化もあり、現在の雇用体制を維持するのは、難しいと思われます。
肥料業界の統廃合が進む
秋田県は農業県ですが、農業で最も注目を集めている話題といったら「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」です。
日本政府は攻めの農業の実現、すなわち輸出の増加を目指しており、そのためには農産物の生産コストの一部である、肥料コストの削減が必須です。
そこで、商社が中心になって、肥料業界統合の動きがあります。
肥料業界では、業界4位のJA系のコープケミカルと5位の丸紅系の片倉チッカリンが、10月1日付で合併し、国内最大の肥料会社となる。政府が掲げる強い農業に肥料は欠かせない存在だ。有機肥料に強い片倉チッカリンと、化成肥料に強いコープケミカルが経営統合することで、技術開発に磨きをかけるとともに、経営基盤を強化するのが狙いだ。
産経ニュースから引用
太平物産の主要株主には、日本最大手商社である「三菱商事」が名を連ねており、偽装発覚からわずか1か月での民事再生法適用の申請についても、業界再編を見据えた動きがあるのかもしれません。
今回は、秋田県の一企業である太平物産の肥料成分偽装が発覚しただけのニュースのように思えますが、その背景にはTPPや農協改革などの国レベルでの政策の変化が透けて見えるようです。